最首塾のおしらせ

最首塾関連の最新情報のお知らせをします。最首塾は最首悟さんを囲んで原則月一度開かれる勉強会です。

立正大学「ケアロジーを創る」連続講演会のお知らせ③(企画趣意)

【承前】
 
■□■企画趣意■□■
 
「3.11」と、このように記号化してしまうことも憚られる、日本を襲った未曾有の大震災と大津波。その上「原発事故」の深刻な人災までが加わって、その途方も無い災害の影響がどこまでどのように及ぶのか、誰も予測できない状況にある。被害の修復には子孫数世代にわたる気の遠くなるような時間を要することだけは明らかである。あまりにも大きな代償を支払ってこの震災が私たちに突きつけているのは、地球・環境や人間・自然・社会の持続可能性について、もはや原発廃棄を視野に入れて本気で考えることが避けられないということであろう。ヒロシマからフクシマへ、被爆国日本が原発大国へ、ノーモア・ヒロシマの祈りをもって核兵器廃絶を世界に訴え続けてきた日本社会が、どこで原発容認・正当化論に道を転じたのか。その戦後史がいま厳しく問い返されねばならないであろう。

自然と人間の関係、科学技術のあり方について、日本の近代文明そのものについて、根本的な問い直しがつきつけられている。「わたしたち人間は生き物であり自然の一部である」という思想に立ち返らねばならない。まさに日本の近代文明のあり方が問い糾されている。思想が、哲学が、根底から問われている。思想のパラダイム転換が突きつけられている。「東日本大震災の〈悲嘆〉の只中に、〈ケアの思想〉の錨を」のテーマにはこのような思いが託されている。

本企画は、立正大学金井研究室が主宰する「ケアの思想を編む」研究会の若手研究者の協力をえて行われる、東日本大震災後の状況への発信である。哲学・倫理学・宗教・医療の場面から、3.11状況を思想的に深く問い返し、この未曾有の危機を前にして、人間・自然・社会関係の修復に「ヴァルネラビリティ」と「サステナビリティ」の視座が不可欠となることを提案していきたいと考えている。また本企画は、「真実」「正義」「和平」の建学の理念のもと「モラリスト×エキスパート」を教育目的に立て「ケアロジー(ケア学)」の確立を目指す立正大学のブランド・ヴイジョンにも深く関わる取り組みでもあるところから、立正大学の学園振興政策プロジェクト経費を受けている。「人間」「社会」「地球」の関係性を修復することを基本理念とし「人文科学」「社会科学」「自然科学」を融合し、人間(心と身体)、社会、地球環境を捉える諸問題をケアし、健全で豊かな状態を創造するための学問として位置づけるべきケアロジー。まさにこの「ケアロジーを創る」「ケアの思想を編む」取り組みは、「復旧・復興」へのさまざまな場面からのグランド・ヴィジョンの提案や政策提言が活発化するいまこそ、喫緊の課題とされる必要があろう。

人の死はどんな形であれ、そのひとつひとつが途轍もなく大きな意味があり、想像もつかないほど深い世界と関わっていると思うのに、なぜか昨今の復旧・復興の掛け声の「ガンバレ日本」の大合唱が、被災された方たちの哀しみに向き合う思いを封じてはいまいかと危惧する。もっともっとひとつひとつの死に深い喪の意を表さなければならない。そして被災者ひとりひとりが喪失の哀しみと向き合う時間を奪ってはならないだろう。 

 犠牲者となった二万を超す死者たちが生き残った者たちに問い突きつけていることはなにか。それはたんに元に戻すという意味での「復興・復旧」ではない。この途方も無い破壊と喪失を、同時代を生きる人間の共通の経験として深く記憶し、私たちのこれまでの精神のありようと生の営みを根底から見つめ直し、困難を伴う新たな復興への道を描き出すことであるはずだ。時代の精神の変容をも導く深さで、「これから」の私たちのありようを模索することではないか。大震災後の私たちの社会が、どこに向かって復興すべきなのか、その道筋を見誤らないためには。